パーフェクト・ドリンク
アルフォンス・アレ
本当のところ、まだ時間はそれほど経っていなかったのだが、ものすごい渇きがキャプテン・キャプと僕の喉を締めつけた。(おそらく前の晩の馬鹿さわぎのみじめな結果だ。)
共通した了解のもとに、僕たちは遠い地平線をにらみながら車を駆り立てた。
確かにとてもシックなあるいは見かけはそのような大きなカフェが現れた。
この土地からして不愉快なほどイョーロッパ(格好をつけて発音すると)風の様相ではあったが、とにかくそこで何か飲みたかったのだ。
「給仕をよこしてくれ!」とキャプが命じた。
「お伺いします。」と支配人がお辞儀した。
「大きなグラスを二つくれ。」
「はい、どうぞ。」
「大きなグラスを二つって言ったんだぞ。ぐい飲みのおちょこ二つじゃないんだ。大きなグラスを二つくれ。」
「はい、ここに。」
「やれやれ!・・・それじゃ、砂糖だ。」
「はい、ここに。」
「いや、こんなふざけた砂糖のかたまりじゃだめだ。・・・グラニュ糖をくれ。」
「はい、ここに。」
「これもだめだ。タバコで毒されているハバナ産の砂糖じゃだめだ。」
「でも、お客様・・・」
「僕はバルバデス(*1)のグラニュ糖にこだわるね。これが僕の作ろうとしている飲み物にぴったりする唯一の砂糖なんだ。」
「私どもにはこの他にはございません。」
「悲しいね!じつに悲しいよ!まったく・・・」
そこでキャプはグラスの底に幾匙かの砂糖を放りこんで少量の水を入れた。
「それじゃ、レモン二個だ!」
「はい、ここに。」
キャプは出されたレモンに心底からうさんくさそうな一瞥を投げた。
「別のやつをくれ!」
「はい、ここに。」
ここでキャプは本気になって怒り出した。
「別のレモンをくれ、と言ったんだ!・・・聞いてるのか?別のレモン二個だ!別のやつだ!『ツー・モア』じゃない、『ツー・アザー』だぞ!別のレモンだ!シシリー産のレモンなんてく×食らえだ!僕はロードス島産のレモンしか頭にないんだ。・・・ロードス島産のレモンはないのかね?」
「今のところはございません。」
「あぁ!笑わせるね、まったく!」
そしてキャプはグラスの中にシシリー産のレモンの汁を搾り出した。
「それじゃ、ジンだ!どんなジンがあるんだ?」
「アンカー・ジンとオールド・トム・ジンです。」
「本物のアンカーか?」
「本物です。」
「本物のオールド・トムか?」
「本物です。」
「で、ヤング・チャーリー・ジンは?そういうのはないかい?」
「存じません。」
「じゃ、あんたは何もわかってないね、まったく・・・」
そしてキャプはそれぞれのグラスになみなみと(あぁ!じつになみなみと!)オールド・トム・ジンを注ぎこんだ。
「かき混ぜよう!」と彼はつけ加えた。
細長いスプーンを使って僕たちはこのカクテルの上のほうをかき回した。
「それでは、氷だ!」
「はい、ここに。」
「これが氷だって!」
「お客様、間違いございません。」
「この氷はどこのものだ?」
「オートゥイユの工場からです。」
「オートゥイユの工場だって?おそらく煮沸した水をパリの住民に供給するためには立派な設備になってるだろうが、製氷精神(フリゴリフィスム)の基本がわかっていないんだ。僕がそう言っていたと伝えてくれないか・・・」
「でも、お客様!」
「とにかく、僕は氷という名前に値するのはあれしか知らないね。冬、バルボット川(*2)から切り出す氷だよ!」
「あぁ!」
「そうさ、バルボット川だよ!バルボット川はリシュリュー川に合流する小さな川だ。そのリシュリュー川もサン=ローラン川に合流するのさ・・・ところでリシュリュー川とサン=ローラン川が合流するところにある小さな町の名前を知ってるかい?」
「そんなことは・・・」
「あぁ!あんた方ヨーロッパ人は地理に強くないんだね!リシュリュー川とサン=ローラン川が合流するところにある小さな町の名前はソレルと言うんだ。・・・とりわけカナダにあるソレル町と、すごい美人で魅力的なセシル・ソレル(*3)とか、新しくアカデミー会員になった優秀なアルベール・ソレル(*4)などと混同しちゃいけないよ!混同しないと誓いたまえ!」
「いいですとも!」
「それじゃ、オートゥイユの工場で作ったきたない氷をくれ。」
「はい、ここに。」
そしてキャプは僕たちの飲み物に数個の氷片をぎこちなく浮かべた。
「これからあとはソーダ水を二ビン持ってきてもらうだけだ。・・・ここではどんなソーダ水を持っているんだね?」
「それは・・・最高のものです!シュウェップスです!(*5)」
「あぁ、神よ!この苦杯から我を遠ざけたまえ!シュウェップスだと!・・・たしかにシュウェップスはソーダ水の中ではふざけた銘柄じゃない。だが旧友のフォール・リバーのムーンマンが作るソーダに比べれば泥水のような塩気の多い、瘴気を含んだ飲み物でしかないんだ!・・・まったく・・・いいからシュウェップスをくれ!」
「・・・親父が言った通りだ。」と僕も悪乗りして言った。
これで終わった!あとは僕たちのドリンクをぐいぐい飲るだけだ。自由で力強く、リズミカルな飲んべえがやるように・・・
そのとき支配人がこの上もなく嘆かわしい考えから僕たちのところにストローを持ってきたのだ。
喧嘩早いキャプにとってはそれだけで十分だった。
「くだらんことをしでかすな!」と彼は怒りを爆発させて叫んだ。
「でもお客様・・・」
「いや、これはくだらんことじゃない!大へんなことだ。古臭いストローだ。下のほうから取った・・・誰にもわからないってのか?・・・何と下劣なやつだ!僕は飼葉桶の麦藁から飲むなんてことはやったことがないぞ。行こう、君、もう行こうよ!」
キャプは大理石のテーブルの上に十分な額の硬貨を放り出して、僕たちは次の酒場を目指して出発した。そこでも僕たちは白ワイン半瓶とゴム管とサイフォンとで大いに楽しんだのだった。(終)
原題: The perfect drink
短編集『二たす二は五』 Deux et deux font cinq 所収 (1895年刊)
作者: アルフォンス・アレ Alphonse Allais
試訳:写原祐二(2005年2月15日)
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