Illustration de Delarue-Nouvelliere ドラリュ=ヌーヴェリエール画
美しい娘と年老いた豚
アルフォンス・アレ
むかしむかし、ものすごく美しい娘がいて一匹の豚を愛していた。
狂おしいまでに!
茶目っ気のあるピンクのかわいい小豚とか美味しいハムになるような小豚ではない。
ちがうのだ。
それは一匹の年老いた剛毛も抜け落ちたよれよれの豚で、肉屋のはしくれでさえも一銭の値段も付けないような豚なのである。
きたない豚野郎とでも言うか!
それでも彼女はその豚を愛していたのだ…見てみるといい!
一国を与えるからと言われても彼女は餌の用意を下僕にまかせたりはしなかっただろう。
そしてこの、ものすごく美しい娘が餌としている、ほどよいジャガイモの皮や、ほどよい糠や、ほどよい野菜屑や、ほどよいパン屑を混ぜ合わせる姿は本当に魅力的だった。
彼女は袖口をたくしあげてその腕(それがまたとても美しい)で餌を全部、洗い桶の水の中でこね回すのだ。
彼女が餌桶を持って中庭に着くと、その年老いた豚は寝藁から身を起こし、よぼよぼの脚で駆けてきて満足げな鳴き声を出すのだった。
豚は餌の中に首を突っ込み、耳の穴までたらふく詰め込んだ。
そしてその、ものすごく美しい娘はその豚の満ち足りた様子を眺めることで幸福感にひたるのだった。
それから豚は満腹となると自分の寝藁のところに戻っていくのだが、世話してくれた女性にはその貧相な目で一瞥だにしようとしないのである。
きたない豚野郎め!
大きな青蝿どもが日の光を受けながらブンブン羽音を立てて豚の耳のあたりを飛び交い、今度は彼らが満腹する番だった。
娘は寂しそうに、空になった餌桶を持ってお父さんの小屋に戻った。目に涙をうるませて。(それがまたとても美しい)
そして次の日もずっと同じことだった。
さてある日がやってきた。それは豚の誕生日だった。
その豚が何という名前だったのか、僕は覚えていないが、とにかく彼の誕生日だったのだ。
一週間のあいだずっと、ものすごく美しい娘は頭をひねって(それがまたとても美しい)その日に彼女の豚にどんなすてきな、喜ばしい贈り物をしてあげればいいのかを考えた。
彼女はなにも思いつかなかった。
それからあっさりと「お花をあげることにするわ」とつぶやいた。
そして庭に入っていちばんきれいな花々を選んで摘みとった。
彼女はエプロンで、それがとてもきれいな薄紫の絹のエプロンで、かわいいポケットがたくさんついていたのだが、花束をくるんで老豚のところに持っていった。
ところが驚くべきことに、その老豚は怒り出してあたりかまわず大きなうなり声をあげた。
バラやユリやゼラニウムの花が彼に何をやらかしたというのだろうか?
バラは棘がちくちく刺さった。
ユリは鼻づらが黄色い花粉だらけになった。
そしてゼラニウムは臭いが強くて頭が痛くなった。
花束にはクレマチスもあった。
豚はクレマチスの花をガツガツとみんな食べてしまった。
読者は植物を食材とすることについて多少は学ばれたことと思うが、クレマチスを食べるのは身体に良くないかどうかはご存知であろう。豚にとっても有害なのだ。
ものすごく美しい娘はそのことを知らなかった。
それでも彼女は教養が豊かであり、しかも高等教育まで受けていたのだが。
彼女が自分の豚に贈ったのは、厳密に言うとクレマチス・ブタコロリ(*)という恐ろしい品種のものだったのである。
老いた豚はひどく苦しんだあとで死んだ。
それを菜の花畑に埋葬した。
それから娘はその墓の上で自刃した。
原題:La jeune fille et le vieux cochon
短編集『抱腹絶倒』A se tordre 所収
試訳:写原祐二(2003年12月3日)
監修:Autel氏(2003年12月24日)
(*) クレマチス・ブタコロリ : Clematis cochonicida 詳細は不明。
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