殺された夫が死後復讐を頼みにやってきた話

作者匿名(Ch. N***, シャルル・ノディエ?)

 クルティニエール殿はブルターニュ地方の貴族で、大半の時を領地の森での狩猟や仲間たちとの交友に費やす人だった。ある時、何人かの貴族や隣人や親族を自分の城に招待し、三〜四日間のあいだ大いにもてなした。この一行が帰っていったあとで、主人とその妻との間で小さなもめ事が起きた。というのも夫君は奥方が友人たちに対してあまり愛想のいい顔をしなかったというのである。とにかく彼はやさしく真面目な言葉でたしなめたので相手を苛立たせるようなことはなかったはずなのだが、この奥方は生来高慢な性格だったので、何の返事もせずに心の中で仕返しをしてやろうと思った。
 
 クルティニエール殿はとても疲れていたのでその日はいつもよりも二時間早く床についた。彼は深い眠りに入った。奥方がいつも就寝する時間となったが、夫がとても深い眠りにおちいっているのに気づいた。先ほど起きたばかりの口論だけでなく、おそらく以前からのいくつかの反感ゆえに、かねてから思っていた仕返しをするには絶好の機会だと思った。彼女は懸命になって家令の一人と下女の一人とをたくらみに誘い込んだ。どちらも金の力によってたやすくなびくのを知っていたからである。

 彼らから絶対他言しないという誓約をしぶしぶながらも取りつけたあと、彼女は犯行の計画を明かした。そしてすぐさまに加担させるために各々に六百フランの金子を与え、彼らはそれを受け取った。それが済むと奥方を先頭に三人一緒に主人の寝ている部屋に入った。屋敷中のすべてが寝静まっていたので、誰にも聞かれることなく彼らは被害者の喉を掻き切ったのである。彼らは死体を城の倉庫の一室に運んだ。そこに穴を掘って埋めたのだが、掘り返された地面が手がかりになるのを恐れて豚肉の塩漬がたくさん入った樽をその穴の場所に乗せたのだった。それから彼らは戻って眠りについた。
 
 あくる日になって他の家令たちが主人の見えないのを不思議がって、「病気で臥せっておられるのか」などと互いに尋ねあった。奥方が彼らに語ったのは、昨夜友人の一人がやって来て、近隣の貴族たちの間で決闘さわぎが始まりそうなので仲裁してほしいと頼まれたので、急いで連れ出されたのだということにした。この言い訳はしばらくの間通用していたが、半月ほどたっても主人が帰ってこないので、人々は心配になり始めた。そこで彼女は流言を広げることにした。それは夫君がある森の中を通り抜けているときに盗賊に会い、殺されてしまったという知らせが届いた、というものだった。それと同時に彼女は喪服に身を包み、悲しみを食いしばりながら、領内にある各教会で亡き領主の魂の安息のためにミサと祈祷を行うように命じた。

 あらゆる親族や隣人たちがやってきて奥方にお悔やみを述べたが、彼女は巧みに悲涙に暮れる姿を演じ、天によって暴かれなければ誰一人その犯罪を見つけることはできなかった。

 故人には一人の弟がいて時おり義姉に会いに来て、その見せかけだけの悲嘆をなだめたり、執務とかまだ幼い四人の遺児の面倒を見てやったりしていた。ある日の午後四時か五時ごろ彼が城の中庭を散策していたところ、ふと地面に咲いている美しいチューリップや他の珍しい花に見とれた。それは彼の兄が大好きだった花である。すると突然彼は鼻から血が出たのでひどく驚いた。彼はかつて鼻血など出したことがなかったからである。その時、彼は強く兄のことを思い浮かべた。彼はクルティニエール殿の幻影が見えるような気がして、しかもそれが彼を呼ぶように手招きしていたのだ。彼はちっとも恐くなかった。彼は亡影のあとをついていくと、城の倉庫の一室まで行き、ちょうど故人が埋められた穴のところで消えるのを見た。

 この出来事で恐ろしい犯罪が行われたのではという疑念が彼に浮かんだ。それを確かめるために彼は義姉のところに行って今起きたことのすべてを語った。奥方は青ざめ、顔つきがこわばり、とりとめのない言葉を口走った。これによって弟の疑念は深まった。彼は亡霊が消えたところの地面を掘ってみるように提案した。寡婦はこの凶行がすぐ明るみに出るのを恐れ、自制心を発揮して平静を装い、亡霊が出たことなど馬鹿馬鹿しいと言い、義弟に冷静になるようになだめた。もし彼がそういうものを見たと騒げば、誰からも馬鹿にされ、皆の笑い者になるだろうと主張した。

 しかしこれらの意見も彼の決意を曲げることができなかった。立会人をつけて倉庫の土を掘り返したところ、半ば腐敗した彼の兄の死体を発見した。この死体は引き上げられ、カンペール=コランタンの地方検事によって確認された。寡婦とすべての家令たちが捕らえられ、三人の罪人は火刑に処せられた。奥方の財産はすべて没収となり、慈善団体に寄贈された。(終)


原題: Histoire d'un mari assasiné, qui revient après sa mort demander vangeance
短編集『地獄奇譚』Infernaliana 所収 (1822年刊)
作者: 匿名 Ch. *** (Charles Nodier?)
試訳: 写原祐二(2005年4月18日)
底本テキスト : Ch. *** : Infernaliana ; Sanson & Nadaud, Paris, 1822
BNF Gallica #62056
http://visualiseur.bnf.fr/Visualiseur?Destination=Gallica&O=NUMM-62056
Histoire d'un mari assasiné, P31〜37


仏和翻訳習作館 忘却作家メモ:ノディエ

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